GETAMA290A ビンテージチェアの修理と再塗装(チーク材)

 

先日、椅子のリペアと再塗装のご依頼を受けました。
デザインはデンマークのハンス・ウェグナー。
GETAMA社のGE290A teak材。
ソファメーカーであるゲタマ社の為にウェグナーがデザインした一脚。


※お預かりしてきた状態

 

ウェグナーデザインの特徴でもある手工芸的なデザインではなく
メーカーの工場設備に合わせたソファーメーカーの為のデザインです。
お客様が購入された時期やチーク材が使用されている
(現行モデルはオークかビーチ。ヘッドレストのデザインも違います)
ことから半世紀以上前の一脚だと思われます。

 

御依頼内容は右前脚と貫の緩みの修理。
椅子全体の傷や汚れを洗浄・研磨して再塗装という内容です。

 


※傷の状態。真鍮もかなり黒ずんでいます。


※座枠の平バネが緩んで貫に傷が生じています。

 

まずは前脚と貫の緩みをチェックします。

 

すでに仕口の接着が切れ完全に外れた状態ならば
何の問題もないのですが、
今回は緩みの箇所をよく観察すると
接着が切れている様子はなし。

 

緩みの原因は貫の上に乗りかかる後脚
(前後を繋ぐ貫の役割も兼ねた部材)
のダボが外れ貫の内部で割れが生じている為だと判明しました。

慎重に状態を見極めます。
(場合によっては分解せずにそのままにしておくこともあります)

 

短い距離の中に仕口が複数存在するため
ダボの接着が切れたことで部材にストレスがかかったのです。
この前脚と貫が緩んだことで
肘掛の付け根部分と後脚の仕口が
梃子の原理でこねられ仕口が外れ
ほんの僅かながら後脚にクラックが入っていました。
今回修理をご依頼頂いたのは本当に良いタイミングで
このまま使い続けていれば後脚が
肘掛の仕口部分で割けてしまった可能性があります。


※仕口を引き抜く際の割れ防止のクランプ

この2箇所の仕口を外し接着剤を塗布。
クラックも養生後に可能な限り
接着剤を擦り込むように差しクランプします。
その他座面クッションの下
座枠に渡してある平バネの緩みがあったので
これを少々絞りました。

 

一通りの修理が終わったところで
ごく僅かに洗剤を混ぜた水で椅子全体を洗います。
皮脂や汚れを可能な限り流します。

特に肘掛の裏
手で触る先端の裏側は汚れが
層になっているので念入りに洗い
その他の脚や貫など深い傷が見受けられる箇所は
丁寧にカンナで一皮剥いてあげます。

木材が素晴らしいのは一皮剝くことで
また新たな木目が顔を出し美しさが蘇るところ。
チークの素晴らしさに何度も手で木目を摩ってしまいます。

 

傷が目立たなくなったらサンディング。
全体にオイルがよく馴染むように
荒目から細目へ向かってサンディングします。

最後はオイルフィニッシュ。

 

オイルを塗布した瞬間に
チークが褐色に変化し
半世紀前もこうであったであろう表情が現れました。

今ではチークは手に入りづらい貴重種になっていますが
こういった素晴らしい一脚を見ると
いつかはチークで一脚をという気持ちが
心の中にムクムクと湧いてきます。

人の体を支え続け半世紀が過ぎ
僅か仕口の2箇所が緩んだものの
また生まれ変わって愛用され続ける。
この椅子のデザインの優秀さと
クオリティの高さの証明に他なりません。

 

デンマークの椅子文化にはまだまだ学ぶところが多いです。