普段は全く食器など作らないのですが、とある方から
「一般的に売られている木のお箸を購入したが
使うとすぐに白けて劣化が目につく様になってきたのはなぜか?」
と言う内容のご相談をいただきました。
購入されたのはウォールナット。
黒々とした木肌のウォールナットですが経年の使用で色抜けするのです。
材によっては白太(木の白い若い部分)を染めて
黒っぽくしている場合もありそれが原因の可能性もあります。
急速に白けたことの原因は簡単に特定は出来ません。
他社製なのでもちろん塗料もなにを使ったのだかわかりません。
これをきっかけにかねてから考えていた検証実験をやらねばと
実際に自分で箸を作り使ってみました。
材はサクラ(日本産)。
木製食器はその使用環境を考えるととても過酷な条件にさらされます。
水、洗剤、高熱、油分etc.。
木の塗装実験には最適です(笑)。
今回選んだ塗料は3種類。
1.一液性の水性ウレタン塗料(水性VATON)
2.ウレタン系木質強化含浸剤(木固めエース)
3.天然由来のオイル(オスモノーマルクリア)
それぞれの特徴を簡単に説明すると
「1」は家具などの一般的木材塗装では最も塗膜強度があるポピュラーな塗料。
「2」は文化財の修復にも使われ木材の深くに浸透し
木製食器など水分・油分にも強い塗料。
「3」は天然由来の植物性オイル。
塗膜を形成するのではなく浸透することで木材表面を保護する塗料。
使用期間は8月下旬から12月下旬の約4ヶ月です。
※木のブロックは塗り立て状態の同材です。
メーカーのカタログデータや過去の使用経験から事前の予測では
「2」の木固めエースが最良で次いで「1」の水性ウレタン塗料
最後がオスモノーマルクリアと考えていました。
使い始めて数週間で少しづつ違いが出ました。
まず「2」。
一部に黒っぽい染みが見受けられるようになりました。
原因は不明ですが何かこの材が内包していた
タンニンに反応したのかも知れません。
「1」は角の塗膜がかすれていかにもヘタってきた感が
見受けられるようになりました。
さらに使い続けるとすべての箸の先
食べ物をはさむ辺りはどれも白けはじめて艶感がなくなってきました。
2ヶ月を過ぎた頃「1」のヘタリ感はより増して
塗膜が残った所とそうでないところの差が大きくなり
見た目に良くない状態になっていました。
「2」の木固めエースと「3」のオイル仕上げは良く似た様な劣化の仕方でしたが
「2」の方が若干、木の持つ赤身が薄れて黒っぽくなっていきました。
ある程度劣化が進むとどれも状態は安定し見た目の大きな変化はなくなりました。
そして4ヶ月が過ぎ違いがはっきりして来ました。
意外なことに「3」の天然由来のオイルが
最も良い状態でキープされることがわかりました。
強固な塗膜を作るタイプではないには関わらずです。
4ヶ月の時間の経過で表面の劣化は否めないのですが
全体の艶感は一番均一で自然な状態です。
オスモ社製品は非常に品質が安定していて
ワックス成分も質が高いことが改めて実感出来ました。
「2」も特に材が狂うこともなく均質に劣化しているのですが
全体にあったサクラ特有の赤味が失われ黒ずんだ状態です。
写真で見ると「1」も艶があり良好に見えますが
塗膜の残っている部分と失われた部分がよりはっきりわかる様になっていて
いかにも傷んだという印象です。
この実験結果はあくまでも外見の変化について主観的に感じたことを書いています。
製作サイドの人間として細かく感じたことを述べているだけですので
この3種ともに塗料としての品質に何ら問題はありません。
またすべての箸で曲がったり割れたりといったトラブルは全くありあせんでした。
一般の家庭での使用ならば天然由来のオイル(オスモ)使用は全く問題なし。
劣化というよりも使い込んだ風合いという経年変化が表れる。
ウレタン系の塗料でもその特徴を理解して
塗膜を張るタイプではなく、浸透力のある艶がないタイプの物ならば
自然な風合いを感じつつ使用することが出来る。
結局「自然にあらがって劣化をさせない」と考えて
強く丈夫なコーティングに注力するよりも
いかに経年相応に朽ちていくか?
が一番美しい状態を維持するのでは。
という少し哲学めいた(笑)結論が今回得られた成果です。
当然ですが木の癖を十分に考慮した木取り・加工が大前提の話ですが。
今回は自宅での使用と先のお話を頂いた方にも
全く同じ箸を各一膳ずつお使い頂いています。
その方についてもほぼ同じ内容の結果が出ています。
ちなみにもし飲食関係の店舗での使用ならば
間違いなくウレタン系の塗料もしくは木質強化含浸剤を選択します。