デザインが先か?サイズが先か?


今年中に新しいデザインの一脚を提案する必要に迫られて
少しづつモックアップの製作やら形の検証やらをしています。

コンパクトで男女のサイズ分けが出来るデザイン。
そんなダイニングチェアが理想です。
まぁボチボチやります。

サイズを分ける。
理想なんですけどなかなか大変です。

普通は男性用の椅子と女性用の椅子
サイズ分けして販売されていることはありません。

十中八九、成人男性用にデザインされていて
小柄な女性は明らかに自分の体には不釣り合いの椅子に
座面の前角にちょこっと腰掛ける。
なんてことが日常。

その椅子に座るには座面が高すぎて
日常の使用に支障が出る。そんな理由で仕方なく
何脚もの椅子の脚のカットを頼まれてきました。
自分自身が作った椅子はもちろん他メーカーやビンテージ品まで。

メーカーのデザイナーや
フリーのデザイナーが、自身のデザインした椅子の脚が
カットされるのを見たらどう思うのだろう?

そんなことを考えながら作業をします。

一旦商品化されて、市場に流通してしまえば
デザイナー自身が脚をカットされた椅子を
直接目にすることはほとんどないと思うし
自分の手を離れたら、もう後は消費者の自由に
という考えもあるでしょう。

椅子のデザインは人体寸法とのせめぎ合いで
単純に美しい線を描いてデザインに落とし込んでも
座るに耐えないなんてことが起こり得ます。

私の様にデザインして製作し、販売までが
自分の責任の範疇である工房家具とは違って
売り上げがメーカーの業績を左右するという
ずっしりと重い荷物を背負ったデザイナーの作品は
図面に引く一本の線にどれだけの重圧があるか
想像に難くありません。

素人目には単に綺麗な形としか写らないとしても
各パーツの造形は「それしかない!」との強い思いがあって
デザイナーは線を引いているはずです。


そんな椅子を脚先40mm以上カットとか普通にあります。


10mm~20mmのカットならまだ何とか。
しかし40mm以上となると話は別で
もはやオリジナルのプロポーションは維持できません。

北欧ビンテージの椅子を自宅の日常使いにする際に
脚をカットするケースも良くあります。

彼らヨーロッパ人は自宅でも靴を履いて食事をします。
北欧系の白人はヨッローパでも背が高い。
当然、胴長短足の日本人にサイズが合うはずがない。
ここで脚をカットとなるのです。

北欧ビンテージの著名デザイナー作品に関して言えば
今は単に椅子としての価値以上に
アートピースしての資産価値も生まれ始めています。
ローズウッドやマホガニーなど希少樹種なら尚更です。

脚先切るのは一向に構いませんが
切ったその瞬間に資産価値はどうなってしまうのか・・・。


稀にですが前脚と後脚の長さを違えてカットする
というケースもあります。

座面は通常前から後ろへ向けて若干の傾斜がついています。

特に欧米の椅子はその傾斜が大きなものがあり
(欧米人の臀部は日本人と違って肉厚で
傾斜が大きい方がおさまりやすいのかも)
明らかに我々日本人には座りにくいものが見受けられます。

ただでさえ高い座面に加えて
傾斜まで合わないとなればあとは腰痛一直線。

結果前脚と後脚をサイズを違えてカットするという結論。
サイズの調整という範疇を超えて
デザインの改良という領域なのでは?との疑問が付きまといます。


問題なのは椅子の選び方なのだと考えます。


体のサイズに合わせることを前提に
脚のカットをある程度、想定したデザインや
極端に個性的なシルエットでなければ
大きな問題はないのです。
実際、うちの工房製の椅子は50mm近くカットする場合もあります。
(脚の造形に若干の修正を加えることもある)

脚を切ることが悪い訳ではないのです。
ただデザインのバランスを著しく損なってまで
ブランドや見た目の好みで椅子を選んでしまうことに
少し疑問があると感じているのです。

座面が40mmも50mmも高い椅子はその他のサイズ感にも
違和感があって不思議ではないのです。


基本的に体に合っていない可能性があります。


美しい画像をWEBで見て
格好が良いしこれで!と決める。
それも今っぽくて良いのかも知れません。

でも広告に華々しく載っている椅子は
現実には座り難くて仕方ない脚長椅子のケースがあります。

やはり家具選びのプロがいる販売店で座って欲しい。
工房家具なら製作の現場で座ることも出来るでしょう。

座り比べるとその椅子のコンセプトを感じるはずです。

そうは言ってもろくなデザインがないじゃないか。
北欧の椅子の様に美しい椅子にお目にかかれない。
と言われてしまうかも知れません。

断言します。
必ずあります。良い椅子。
日本人のボディサイズを考えたサイズ感の椅子が
少しづつですが確実に増えてきています。
メーカー、工房問わずです。

たかが椅子です。

されど椅子です。

その一脚に出会うまでの道のりは短くはないですが
本当に感性にピタッとはまる一脚に出会えたら
きっと終生その椅子に座り続けたいと思うはずです。