この仕事できますか?


あっという間に夏が去っていく・・・。
お盆前に夏風邪をひき、不調を引きずって仕事をして
何も楽しいことがない?まま夏が終わりそうです。

工房の所在地である豊中市。
大阪府下では住宅地で知られています。
転勤族も多くて、どちらかと言えば大阪色の薄い土地。
そんな認識をされているエリアですが
以外に知られていないのが
かなりの町工場があって
それも技術水準の高い中小企業が集まっている自治体だということです。

とある金属加工についての相談を受けました。

あんたは木工屋じゃないの?と言われそうですが
その辺りの経緯は長くなるので端折ります。

ステンレスの「ろう付け」もしくは「溶接」を依頼できるかどうか
についての相談でした。

工房周辺には金属加工から樹脂関係に塗装業、誰かに尋ねれば
一通りのもの作りは出来てしまうような土地柄なので
心当たりのステンレス溶接の熟練職人の方に話を持って行くと
「まぁ簡単ではないけど出来るやろう。」とのこと

溶接したいそれは一点物で取り替えのきかない品物。
それまでは「ろう付け」されていた部品が経年の劣化で
外れてしまった為に元の位置に溶接で取り付けたいのです。

「おそらく問題ないと思うけど、失敗すると品物がダメになる
そのリスクだけは承知しといて。」

ここで「それならやめておこう」となることもあるでしょう。
その熟練職人とは親しくさせてもらっていて人柄や日頃の仕事も
よく見させてもらっていたので、お願いして大丈夫だろう
そう判断しました。

職人なら難易度に差はあっても
見込みのないものに「出来る。」とは言わないものです。

本当に頼もしい人に囲まれていると実感します。

お願いした品物もなんとか無事仕上がって
工房でお茶を飲みながらしばし雑談。

「鉄」の世界も機械の自動化が進んでいるそうです。
若い後継者の多くは職人というよりオペレーターで
コンピューターのプログラムには長けていても
汎用機での加工や溶接
そんな仕事を任せられる若手となると
グッと少なくなるそうです。

自動機で同じものを同じ精度で沢山作る。
コンピューターの力を借りて精度の高い製品を作る。
それが今の時代に求められていることです。

汎用機での加工や手作業での溶接は効率から見れば
時間もかかり効率的ではありません。

熟練職人曰く
「例えばステンレスを溶接すると歪みが出る。
これは鉄でも同じだけどその歪みの取り方が
鉄とは違ってかなり難しい。

同じように熱を加えても冷めれば
また元のように歪みが戻ることもある。
これを教えようと思っても教えられない。
やっぱり自分で試して失敗して、また試して。
それの繰り返しで覚えるしかないねん。」

体で覚えるには時間がかかります。
経営面から見れば習熟するまでのコストもバカになりません。
あまり好きな言い方ではないですが
そんな熟練の職人技が生きる場所は
そんな効率主義が手の届かない「すき間」なのかも知れません。

人間の手が行う作業は精度に欠けていて
コンピューター制御と比較すると一見非効率的に思えます

しかし、五本の指があって
その各指に3箇所の関節があり
各々自由自在に力を配分する「手」が2つもあり
加工部材の温度変化や切削状態を感じ取る「目」があり
加工機械の状態を瞬時に音で判断できる「耳」がある
人間の持つ能力は想像以上に素晴らしいものですよ。

その熟練職人の工場には
幸い若い後継者が何人か育っています。
これから少しづつ失敗もしながら
頼もしい職人となってくれるはずです。

10年も経てばまた世の中も変わっているでしょう。
だとしても人が生きている世界にある
「すき間」はなくならないはずです。

だとすれば技術に長けた職人が消えてしまうこともない。

がんばれ豊中の町工場。